COLUMNコラム
ハンディキャップや言葉の壁などに配慮を施しつつも使うべき人を限定せず、誰もが使いやすいデザインを目指すユニバーサルデザインの思想。
1980年代にアメリカで提唱されはじめ、現在ではいろいろなところにその思想が反映されたモノや表現が存在しています。
今回は、ユニバーサルデザインの基本的な思想をおさらいしつつ、近年さらに多彩な分野に広がりを見せている“令和のユニバーサルデザイン”を、身近な例を挙げながら紹介します。
今や一般用語になったユニバーサルデザイン。その思想は米国人建築家のロナルド・メイスらが1980年代に提唱した、次の「7つの原則」を基本としています。
1. 公平な利用
2. 利用における柔軟性(さまざまな用途に対応)
3. 単純で直感的な利用
4. 認知できる情報(わかりやすさ)
5. 失敗に対する寛大さ(安全性・危険回避)
6. 少ない身体的な努力
7. 接近や利用のためのサイズと空間
7つの原則はすべてを同時に適用しなければいけないわけではなく、状況に合わせて柔軟に適用されることが前提です。利用する人や環境によって組み合わせも変化します。
そして、皆さんがよくご存じの物にもユニバーサルデザインがたくさんあります。例えば自動ドアは最もわかりやすい例のひとつです。車いすや松葉づえを使う人だけでなく、両手に荷物を持った人や身長の低い子どもでも簡単にドアの開閉ができます。
トイレや非常口を絵で表すピクトグラムもユニバーサルデザインです。言語に関係なく視覚的に場所のありかなどを伝えることができますし、字を覚える前の小さな子どもでも直感的に意味がわかります。また、字が読める方であっても、急いでいる時などには色と形で瞬時に意味がわかるピクトグラムは便利ではないでしょうか。
ユニバーサルデザインと似ている言葉にバリアフリーがありますが、両者にはどんな違いがあるのでしょうか。
バリアフリーは「障がい(バリアー)を取り除く」という意味で、特定の障がいを持つ人への配慮を示す考え方。1974年に国連障害者生活環境専門家会議が作成した報告書『バリアフリーデザイン』で初めてその言葉が使われ、国際的に使われる用語になりました。
それに対してユニバーサルデザインは、もっと対象者の範囲が広く定義されています。提唱者であるロナルド・メイスはユニバーサルデザインを、
「特別な製品や調整なしで、最大限可能な限り、すべての人々に利用しやすい製品、サービス、環境のデザイン」
と定義しています。つまり、使う人を障がい者に限定せず、可能な限り多くの人をカバーしようとする考え方がバリアフリーとユニバーサルデザインの違いです。
日本政府は2020年の東京オリンピック・パラリンピックを見据え、2017年に「ユニバーサルデザイン2020行動計画」を策定しました。その中で基本的な考え方として
「障害のある人や重い荷物を持った人も含め、すべての旅行者がストレスなく快適に観光を満喫できる環境づくりが必要である」
という考えを謳っています。ユニバーサルデザインを高齢者や障がい者に限定せず、健常者や外国人観光客もカバーした“みんなのための街づくり”へと拡大する、新しい指針が打ち出されたといえます。
ユニバーサルデザインは公共施設や建物だけにはとどまらず、観光や教育、スポーツなどあらゆる分野に広がりを見せています。ここからは、令和時代に即したさまざまなユニバーサルデザインの事例をご紹介します。
情報技術の発達はユニバーサルデザインの進化を加速させます。全地球測位システム(GPS)やウエアラブル端末は障がい者の移動支援や見守りに。音声・文字ガイドは視覚・聴覚障がい者のほかに、外国からの訪問客や子ども、高齢者にも便利です。
総務省では、少子高齢化が進んで社会インフラの維持が危機を迎える2030年代の「静かな有事」に備え、ICTを導入した社会変革を促す「未来をつかむTECH戦略」を策定。その中で「実現した未来の形」のひとつとして、
「年齢・性別・障がいの有無・国籍・所得等に関わりなく、誰もが多様な価値観やライフスタイルを持ちつつ、豊かな人生を享受できる『インクルーシブ(包括的)』の社会」
を提言。VRを活用した教育支援やロボットを使った生活介助などをその例に挙げています。
メディアの世界にもユニバーサルデザインは浸透しつつあります。NHKでは2023年4月から文字フォント、アイコン、色、レイアウトをユニバーサルデザイン(UD)に刷新し、統一することを発表しました。
また、2016年には株式会社静岡新聞社・静岡放送株式会社の「メディア・ユニバーサルデザインプロジェクトチーム」の取り組みが内閣総理大臣賞を受賞しました。視覚障がい者に配慮し、使用可能な色と不可な色等のカラーユニバーサルデザインへの対応や、新聞紙面に「新聞UDフォント」の導入などが評価されています。
教育現場でもユニバーサルデザインは広がりを見せています。授業で使われる黒板用のチョークには、色覚障がい者や眼疾患のある方が認識しやすい、カラーユニバーサルデザイン(CUD)を適用した製品が近年増えてきました。また、教科書や印刷物にもCUDが導入され、特定の色が認識しづらい生徒でも見やすい配色やデザインの地図や図表入りの教科書が増えつつあります。
また、教室の環境も、徐々にユニバーサルデザイン化されてきています。埼玉県の小学校では、刺激に敏感な生徒に配慮し、黒板の周辺から余計な掲示物を減らし、日付等は黒板の外に掲示する取り組みを学校全体で行っています。その結果、黒板が使える範囲が増え板書がわかりやすくなるなどの効果が得られています。
このように、掲示物の配置や作業手順の視覚化やルールの統一など、学校の環境整備にもユニバーサルデザインの考えが徐々に取り入れられてきているのです。
高齢者や外国人訪問客など、より多くの観光客が楽しめる街づくりが進んでいます。政府が提唱した前出の「ユニバーサルデザイン2020行動計画」では、観光地のバリアフリー化や旅行支援の行動計画が盛り込まれました。これを受けて観光関係者らは「心のバリアフリー」を実践できるよう、接遇マニュアルを作成。閉会後もユニバーサルツーリズム促進事業を継続し、地域の受け入れ体制強化を進めるなどの対策が進められています。
一方で、地域レベルでも多様な観光客への対応が進んでいます。一例として、島根県松江市では、地元の温泉旅館協議会が中心となってユニバーサルデザインの先進地を目指すまちづくり計画を2023年に作成。
なかでも同市の旅館「なにわ一水」は、車いすでも快適に過ごせるユニバーサルデザイン客室や大浴場での「リフト付シャワーキャリー」利用提供などの取り組みが評価され、ユニバーサルデザインに関する国際的な表彰「IAUD国際デザイン賞」の金賞を受賞しており、先進的な取り組みに注目が集まっています。
障がいの有無にかかわらず、より多くの人が楽しめるように考案されたスポーツがユニバーサルスポーツです。音の鳴るボールを使った風船バレーのように、既にあるスポーツの道具やルールをアレンジした種目や、ボッチャのように初めから誰もが参加できる形で考案された種目など、ユニバーサルデザインの考えを取り入れた新しいスポーツが誕生しています。
また、スポーツ施設のユニバーサルデザイン化も進んでいます。スポーツ庁では「誰もが気軽にスポーツに親しめる場づくり総合推進事業(スポーツ施設におけるユニバーサルデザイン化等推進事業)」を通して、スポーツ施設のユニバーサルデザイン化を普及させるための啓発活動を行っています。
少しの手助けや配慮で、イベントに参加できる人を増やすことができます。2016年に「障がいを理由とする差別の解消の推進に関する法律」(障がい者差別解消法)が施行されたこともあり、誰でも参加できる、そしてみんなが楽しめるイベントづくりはさらに求められていくでしょう。
ユニバーサルデザインに配慮したイベントを数多く開催している世田谷区では、イベント開催におけるユニバーサルデザインの工夫について、次の6項目を挙げています。
1.車いす(貸し出しや利用スペースの確保)
2.手話通訳・文字通訳
3.集団補聴設備
4.ひととき保育(一時預かり)
5.授乳スペース、おむつ交換のできる場所
6.トイレ(車いす使用者用トイレやオストメイトなど)
車いす利用者に配慮したスペースの確保などさまざまな配慮があげられていますが、すべてを同時に満たさなければいけないというものではなく、イベントの内容や参加者に応じて柔軟に適用されています。
「めぐろふれあいフェスティバル」は、毎年12月第1週に開催されている障害者週間記念イベントです。TSP太陽は、2022年12月に目黒GTプラザで開催された「令和4年度めぐろふれあいフェスティバル(障害者週間記念事業)」の開催を担当しました。
イベント内容は、フリーマーケットや障がい者の自立の模範となる方を表彰する表彰式、そして目黒区内の障害者施設を紹介する映像公開の3つです。
フリーマーケット会場では、車いすの通行等に支障がないよう道幅の設定や動線確保などに目を向け、ユニバーサルデザインを意識しての会場設営を行いました。
公開映像は、障害施策推進課のマスコットキャラクターを進行役に、障がい者の方々の目線や生活を伝える楽しい内容に。当日は来場者が大勢訪れ、用意したノベルティーもすぐに無くなる盛況ぶり。参加者の協力も得て、楽しい一日となりました。
TSP太陽では、毎回イベントを開催するに当たり、まずは「危険な箇所はないか」「誰もが楽しめるものか」といった「当たり前のこと」に配慮することを普段から徹底しています。これは、安全面や満足度を高め、誰もが安心して楽しめるイベントづくりをすることでユニバーサルデザインに貢献できると考えているからです。ユニバーサルデザインの本質的な考え方を実践し、みなさまに優しいイベントづくりをこれからも推進してまいります。下記にて当社の活動事例を紹介しておりますので、ぜひご覧ください。