COLUMNコラム
認知症のうち、65歳未満で発症した場合を指す「若年性認知症」。2020年に厚生労働省が発表した最新の統計によると、全国には3万5千人以上の若年性認知症患者がいるといわれています。
昨今では、2019年に大ヒットしたドラマ『大恋愛~僕を忘れる君と』や、2023年公開の映画『オレンジ・ランプ』に題材として描かれるなど、広く世代から関心が高まっている若年性認知症。
しかしながら、400万人以上の患者がいる老年性認知症に比べると情報が乏しく、予防啓発や患者支援に向けた活動もあまり知られていないのが実情です。今回は支援担当者を対象として、若年性認知症の実態を解説します。そして、自治体ができる取り組みの例を紹介していきます。
まず最初に、2020年7月に発表された最新調査(※1)の結果から、日本の若年性認知症の実態について見ていきましょう。
同調査によると、全国における若年性認知症患者の推計は3.54万人。これは18歳から64歳の人口10万人あたりのうち、50.9人に1人が若年性認知症患者という数字です。年齢が上がるごとに患者数の割合が増えますが、50~54歳の患者数は人口10万人あたり43.2人、45~49歳でも同17.4人、40~44歳でも同8.3人と、55歳未満が全体の約17%となっています。
男女別の比率は、男性が約58%、女性が約42%。最初に症状を自覚した平均年齢は56.8歳で、全体のうち19.2%が一人暮らしという統計も出ています。
若年性認知症と老年性認知症の大きな違いのひとつは、65歳未満の発症者が働き盛りの現役世代であるということです。そのため、収入減など生活への不安がのしかかることになります。
先ほどと同じ調査結果によると、発症時に就労していた人のうち67.1%が発症後に退職、6.2%が解雇を経験しています。約7割以上が「本人の年金」を主な収入源とする老年性認知症患者に対して、若年性認知症の主な収入源は「家族の収入」が52.3%と非常に割合が高く、次いで「本人の障害年金等」が39.9%、本人の年金が29.9%となっており、全体の64%は「収入が減った」と答えています。
働きたい意思があるのに職を失うという体験は、収入源だけでなく、本人から社会との接点をも奪っていきます。発症後も可能な範囲で働き続けられる、誰もがいきいきと暮らせる社会の構築が求められています。
次に、別の最新調査(※2)から自治体の若年性認知症支援への動きを見ていきましょう。
同調査の中で、全国市町村の認知症施策担当者1,741名を対象に行った調査(複数回答可)によると、若年性認知症に対する認知症総合支援事業として現在実施されている事業で最も多かったのは「認知症ケアパスに関すること(61.6%)」でした。そして、「認知症サポーターの養成に関すること(60.4%)」や「認知症カフェに関すること(57.0%)」「認知症地域支援推進員に関すること(56.8%)」なども半数以上の自治体で実施されていることが分かりました。
また、若年性認知症患者や発症の疑いがある人に関して、家族や職場から相談を受けた際の支援体制については、約半数にあたる50.7%の自治体が「支援できる仕組みがある」と答えています。
一方で、福祉的支援のうち、何らかに対して「実施なし」という返答があった自治体に、その理由を調査(複数回答可)したところ、62.3%が「若年性認知症の人を把握できていない」、57.2%が「若年性認知症の人からの相談自体がない」と答えています。老年性認知症よりも患者数が遥かに少ないこともあり、自治体担当者が膝下の状況把握に苦慮している様子が浮き彫りになっています。
上記を踏まえながら、若年性認知症予防と患者支援に向けて実際に自治体が行う活動の例を紹介していきましょう。
最も一般的な活動のひとつに啓発イベントの開催があります。代表的なところでは、毎年9月21日の世界アルツハイマーデーおよび毎年9月の世界アルツハイマー月間に行われる各種イベントが挙げられます。
この期間中には、全国の自治体が参加して認知症啓蒙に向けたさまざまな催しが行われます。その中には若年性認知症にフォーカスしたイベントも。例えば、全国で約4,100件のイベントが行われた2022年には、山形県寒河江市の図書館で市内在住の若年性認知症患者の手記を公開。また、茨城県下妻市で若年性認知症支援コーディネーターによる講演会の開催、島根県出雲市では若年性認知症の家族を講師に招いた講演会などが行われました。
若年性認知症の当事者、患者を支える家族、地域で活動する認知症サポーターを講師に招いた講演会が各地で行われています。
また、東京都では企業の人事・労務担当者などを対象に「若年性認知症企業向けセミナー」を開催。有識者や医師などを招き、若年性認知症患者に対する職場内の正しい理解と支援についての啓蒙を行っています。
認知症に関するワークショップには、「当事者が議論や意見交換を行う」「健常者が認知症への理解を深める」「認知症患者と企業関係者が協働でビジネスアイデアを提案する」など、さまざまな目的があります。また、認知症患者が使う筒状の防寒具「認知症マフ」を作る会なども各地で活発に行われています。
適度な運動やアートワークは、脳の活性化を促し、症状の進行を遅らせる効果があります。また、若年性認知症患者が制作した絵画や写真作品を展示し、認知症への理解を深める活動を行う自治体もあります。
例えば、京都府では若年性認知症当事者のカメラマンが撮影した写真展「記憶とつなぐ ある写真家の物語」展を、2022年3月に市内の有名美術館で開催。認知症当事者の視点を数々の写真で伝えました。
東京都足立区が設置する「おりがみカフェ」や埼玉県さいたま市が設置する「リンカフェ」のように、自治体が設置する若年性認知症患者・家族のための認知症カフェもあります。
認知症患者とその家族がつどい、自由な時間を過ごす場には、若年性認知症支援コーディネーターが参加するケースも。当事者が抱えるさまざまな悩みを相談し、情報を共有できる場になっています。
その他、神奈川県小田原市、箱根町、湯河原町、真鶴町の1市3町と地元の医師会、保健福祉事務所、病院、若年性認知症支援コーディネーターが結成した「小田原・箱根・真鶴・湯河原の一市三町若年性認知症を考える会」のように、自治体と市民団体等がネットワークを結んで活動しているケースもあります。
老年性認知症に比べて、まだまだ社会からの理解が低い若年性認知症は、積極的な予防啓発と患者支援を行う必要性がある領域といえます。理解と共生を深めるための啓発イベントやワークショップの実施は、今後も必要不可欠です。
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《参考資料》
※1 地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター研究所 「わが国の若年性認知症の有病率と有病者数」2020年7月発表
https://www.tmghig.jp/research/release/2020/0727-2.html
※2 社会福祉法人 仁至会 認知症介護研究・研修大府センター「令和4年度認知症介護研究報告書 市町村における若年性認知症支援施策の促進に関する調査研究事業」 2022年10月発表
https://www.dcnet.gr.jp/pdf/download/support/research/center2/20230403/o_r4_ninchisyokaigohokoku.pdf